春図鑑「猫の恋

いまどきの「猫」は、ペットとして家の中で飼われ、お行儀よくしつけられているうえに、飼い主から大事にされている。それこそ「猫っ可愛がり」である。だが、昔は「飼い猫」といっても、エサは残飯、つまり余った食材で、たまに牛乳などを与えられるのが贅沢だったはずだ。それだけに、たくましく、町内をうろついては食べ物にありつき、あるいは近所の飼い猫や、ときには野良猫と「ごちそう争奪戦」を繰り広げ、路地や庭先で「ギャー、ギャー」という鳴き声を耳にしたものだ。ところが、春になると、その鳴き声は「ミャー、ミャー」となる。「クゥ~ン」なんていう色っぽい鳴き声も聞こえたりする。陽気に誘われた猫にサカリがついて交尾期を迎えるためだ。こうなると春の宵は、にぎやかで、ここそこで「ミャ~、ミャ~」である。猫を飼っていた家なら、「しばらく猫が姿を見せかいなと思っていたら、やせ細って、身体じゅう傷だらけで帰ってきた」といったこともあったに違いない。メスの猫だったとすれば、それから2カ月ほどして、赤ちゃん猫を産んだりする。たいてい4匹から6匹くらい生まれるが、「さて、子猫のもらい手はないものか」と、飼い主は慌てたりする。それにしても生まれたばかりの猫は可愛いもので、10日もすると目を開き、2か月ほどで離乳し、4か月もすると独立する。人間が成人まで20年もかかるのと大違いだ。子猫の成長を4か月もみていると、情が移り、今度は手離したくなくなる。そうして猫が増えていく……という家も少なくなかっただろう。
 
 

 

春便り 

 

 
 
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