春図鑑「霞(かすみ)

おだやかな陽光が春の訪れを告げる一方で、春はまた、霞
(かすみ)のかかる季節でもある。場所にもよるが、関東地方の広い地域で富士山を見ることができる。だが、冬のあいだ、くっきりと見えていた富士山が春の到来とともに、ぼんやりとしか見えなくなることも少なくない。その原因は霞のせいだ。霞は気象学の用語ではなく、文学的な表現で、気象観測で見通すことのできる水平距離が1キロメートル未満であれば「霧(きり)」で、1キロメートル以上10キロメートル未満のものが「靄(もや)」と呼ばれる。じつは、気象学的には、霧も靄も雲の一種と定義されている。大気中に浮かんでいて、地面に接していないものが雲、地面に接しているものが霧、靄だ。唱歌「さくら さくら」では、「野山も里も 見わたすかぎり 霞か雲か 朝日ににおう さくら さくら 花ざかり」と歌われている。要するに霞は桜の時期と同様に、春の風物詩ということができるだろう。昼間、景色をぼんやりとさせる霞が、夜、たとえば月にかかるようになると、それは「おぼろ」で、「おぼろ月夜」ということになる。
 

 

春便り 

 

 
 
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