春図鑑「お花見

桜の花は、咲き始めたと思ったら満開を迎え、そして、あっという間に散っていく。その期間は約1週間。そのわずかのあいだの見事な咲きっぷりと、潔い散りっぷりに、日本人は桜の花の美しさを愛でるだけでなく、切なさや儚さを感じるのだろう。時として、雨や風で花びらが散ってしまうこともあり、「花に嵐」とはよくいったものだ。花見は平安貴族の遊びから始まったと伝えられ、江戸時代から庶民の間に広まった。花筵(かえん)と呼ばれるむしろの敷物の上で桜を眺めながら宴を楽しんだ。昔の花見といえば家族で楽しんだり、職場の行事だったりしたかもしれない。なかには「新入社員としての初仕事が花見の場所取り」だったという人もいるかもしれない。もちろん「春といえば、夜桜見物を楽しんだ」というカップルもいることだろう。いずれにしても、マナーが云々されるようなことはなかったはずだ。昨今は、桜を愛でるよりも、ただの飲み会と化している花見も少なくないようで、トラブルが続出しているのは嘆かわしいかぎり。落語の「長屋の花見」は江戸時代に庶民が花見を楽しんだ話で、桜を見ながらお酒を飲み、重箱をつつくもはずが、お酒ではなくて番茶、玉子焼きではなくて沢庵という、お粗末な話。だが、「大家さん、今年は長屋にいいことがありますよ」「ほう。どうしてだい」「だって、(茶柱を見て)酒柱が立ってます」というオチに、平和でのどかな花見のようすがうかがえる。

 

 

春便り 

 

 
 
リンクボタン
Copyright ディスカバーニッポン. All Rights Reserved.