秋の風景「鈴虫」
平安文学というよりも日本を代表する文学作品である『源氏物語』の第三十八帖には「鈴虫」の巻である。その一節には「虫の音がいろいろ聞こえるなかで、鈴虫が声を立てているところは、華やかで趣がある」というくだりがある。たしかに、秋の夜、「リーン、リーン」と聞こえてくる鈴虫の声は、暑かった夏も残暑もすぎて、しのぎやすい季節を迎えた安堵感にふさわしい。『源氏物語』では秋草の茂る庭から聞こえてくる鈴虫の声だが、鈴虫は飼育がかんたんなことから、家で飼うことも難しくない。なかには、趣味のひとつとして鈴虫の飼育を楽しんでいる人もいる。じつは、江戸時代にも鈴虫を飼育し、籠に入れて売り歩いた虫売りがいたと伝えられている。宮城県仙台市、千葉県市川市、長野県松川村では、それぞれ鈴虫が「自治体の虫」となっている。
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